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とはいえ、夢でしかない残念な現実もある。そういう未来もあったかと、思うくらいの事しか出来ない。
もう、望むべくもない未来なら、尚のことだ。星純は少しばかりほくそ笑んで、部屋の隅っこから身体を起こす。
落ち着かない片隅。ベッドも布団も備えられているのに、祿すっぽそこで寝られないのは、ここ十余年の習性だ。
嫌にもなれない習性だ。柔らかな羽毛より、固く冷たい物質がいい。
「ああ……困った癖だよ、まったく」
なあ、ハチ、ミツ。誰に言うでもなく、届くことも無いことば。星純は座り込んだ身体を起こした。
つやつやのフローリングに白漆喰の塗り込めた内壁。まだ新品なのだろうか、寝ながら預けた左のこめかみに白い欠片が乗っている。
星純はそれを払いながら視界を回す。大して期待もしていなかったけれど、やっぱり時計がない。時間は分からないけど、窓からの日差しは明るいから、たぶんまだ朝だ。
しかも早朝。というのも、寝る前の様子では既に夜が白んでいたから、これは相対的な問題で。
ピンポーン……
いきなり、すっとんきょうな音が響いた。気の抜けた、鈴の音のような調子。
星純はちょっとだけ考えて、すぐに思い出した。昨日、リリーが言っていたアレだ、用がある時に使う。
「……あれか、「呼び鈴」だ」
呼び名を思いだし、納得。それを阻んで、呼び鈴は鳴った。
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