第3章

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クレアから見える、その身体は小さかった。ぼろきれの衣服が赤くべっとりと汚れ、手足の幾らかが欠けている。 そして、見えてしまったもの。天井の大穴、爆発の衝撃で剥がれた石材から漏れ見える、今の今までそれが覆っていたもの。 「な、……なによ……それ…………」 一言で言えば、肉の壁だ。壁、床、天井に見境無く、貼り付けられた肉と骨。 ひとの死骸が、老若男女すら問わず、バラバラになって。およそ肉体で執り行われる分解法は、すべてここに在るように見えた。 「逃がさ、サササないっ、デェすよ?」 小さな、自身を押さえつける身体は嘯く。ぐるりと、こちらに差し向ける顔は、間違いなく子供だった。 短く刈り込んだ頭の、幼さの残る顔立ちの、首のねじ曲がった男の子が。 「ひ……あ、くっ……!」 クレアは恐怖する。最早なにをどう考えれば良いのか分からないほど、状況は異常の極みだ。 狂った眼光を向ける子供が、あからさまに常軌を逸した肉体たちが、言動が、この建物そのものが。あらゆる理解を拒絶して、クレアの心を脅かす。 「やめ……ろ……! 離して…………離せっ!」 「だっめ、めめめめだヨォ? 可愛いぃいオ嬢さン♪」 音調の外れた声が言うように、しっかりと捕まえられた身体はビクともしない。爆圧の影響もあるけど、子供の体格で出せる膂力でもないはずだ。
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