第3章

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鉄棒を振り上げ、グレイはその必要な言葉を放つ。途端、塊の目前にひとつ大きな水球が浮かんだ。 巨躯ゆえの慣性か重量か、振り上げた大腕もそのままに、肉塊は止まることなく突っ込んでくる。豪快な勢いで迫る圧力は、しかし水球に触れれば瞬時に消えてなくなった。 水球が、瞬間に膨張して自分の中へ閉じ込めたから。巨躯を覆って尚あまりある水量が、捕らえた相手もろとも空中に留め置かれる。 捕獲、拘束を旨とした水系魔法。複数の水球が魔物の手足を絡めとり、動きを封じるのが普通の使い方だけれど、これはその応用版だ。 クレアはそれだけ分かると、ため息と共に目を閉じた。後の結果がどうなるか理解しているし、何より姉が、あまりに不敵に笑っている。 グレイはそうして、手にする得物を振り抜いた。 「━━〈棺桶殺し〉(ハートロッカー)!!」 浮かぶ水溜まりに叩き込む、渾身の一振り。内側で漂うだけの塊は、防御するかのように肉で出来た突起と腕とを差し向けるけど、ここに来てその行為に意味は無かった。 グレイの棍棒が水面に触れ、ぱしゃりと小気味の良い音が弾ける。水球が細かく振動した。瞬間、膨張。 そして爆発。盛大に砕け散った水量はそのまま、内側にしまい込んだ何物かもを粉砕する。
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