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「だからそんな顔ッ!…………って、あれ?」
「…………」
しおらしく、消沈した様子で俯くクレアは、グレイにとり少しばかり小さく見えた。その横顔には、悲壮めいた疲労感が見てとれる。
心の方の疲労、しかも随分重そうなやつが。グレイはそれだけ確信すると、やれやれといった具合のため息をつく。
「姉さんは気にしてないよ。クレアが生きているからね。だから、そんな顔をしちゃいけない」
「…………」
「━━帰るよ、姉御が待ってる」
「…………うん」
そっと、右手を差し出すグレイ。逡巡の間を置いて、クレアは妙にぎこちなく手を取る。けれどそれだけでなにか安心を覚えるのは、きっと家族の為せるわざなのだろう。
クレアはそんな、珍妙な確信を得ると同時に、まだ万全でない身体を姉に預ける。
二人の意識は、この時完全に離れていた。自らが吹き飛ばした死体、残骸たち。
背後に広がる肉片から、にじり出る極小の線虫。その数匹が群れとなり、瓦礫に紛れて消えていくのを、知覚していた者は誰もいない。
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