第3章

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「おお、よしよし。おかえり、良く帰って来た」 爆発の起きた建物が、ここからも見える。煙と轟音ですぐにでも誰か駆けつけるだろうけど、それはもうどうでも良い。 グレゴール=ボリスは暗い路地に身を潜め、地面を這って現れる線虫を拾い上げた。針金のように細く小さく、しかしその種の生き物より動きは随分とたどたどしい。 いびつと言っても良い。身体の作りも普通でなく、良くある流線型のフォルムとはかけ離れた、微細な四角形を幾つも繋ぎ合わせたような形で身をくねらせる。 妙に無機的とすら言える。実際、生き物ではない。 『作戦は順調か?』 回線がオンラインになる。耳のなかで響く声は冷然としていて、すぐに自分の上司のものだと分かった。 しかも機嫌がかなり悪そう。グレゴールは辺りを一瞥してから通話に答える。 「どうしました曹長。威力偵察はもちろん順調ですよ?」 『そっちではない。貴様の本来の作戦だ』 「ああ、そっちですか…………もちろん、順調ですとも」
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