第3章

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首筋を、線虫が這っているのがわかる。グレゴールが持ち合わせる得物、物理汚染プロトコルの塊りがいま、元居た場所に戻ろうと試みている。 皮膚のしたに潜む製造コロニー、そこに自らの得た経験情報を蓄積させるために。グレゴールは遠くを眺めるように両目を細め、いまだごそごそと肌を滑る首の虫を潰した。 これ自体は、たかがデータだ。しかも既にアーカイブされた類いのもの。だから失ったところで痛手にもならない。 ただ、煩いと思ってしまった。妙に感情が波立っている。グレゴールはため息を薄く付いて、いいやと訂正する 。 「すみません。概ね順調、と言い直します」 『そうか。先の爆発と関係が?』 「ええ」 『ならば報告を聞こう』 「了解。アーカイブにアップロードは済んでます」 それらは基本的に専門用語だ。用件の要点と情報を圧縮し、他者に意味を悟らせない。 辺りを行き交う人々の耳に入ったところで、大した問題にはならないわけだ。だから聞かせたところで大丈夫と、声量も落とさず話しているけど、“だから大丈夫”と言うよりは“だからどうした”と言った気分に近い。
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