第4章

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〈第二○八執政府〉という機関がある。機関というか、それ自体が多くの機能を有する複合コミュニティで、平たく言えば「国家」である。 政治指揮能力を持ち、治安維持能力に長け、権力中枢による一括統治を可能にしている。本来有すべき要因の諸々が抜け落ちているけれど、国家としての定義はそれなりに曖昧であるから、ならば広義の国と言えなくもない。 その中の『ソドム』は、詰まるところ首都にあたる。〈第二○八執政府〉の管理する都市群の中で、最も中枢に足る規模と能力を備えた街。 必然、人も物も集まるから秩序的にある種の空白地帯は生まれる。こうした遠大なスラムも、人々の必要から生まれたものなのだ。 近所の教授はそう言っていたのを、ハチは良く憶えている。何故なら自分の兄貴分も、同じ事を言っていたから。その教授から同じ様に学んでいたのだから当たり前かな、とも思う。 同時に、二人はこうも言っていた。全く別のタイミングで、似たような言葉だから、多分お互いに思った事を言っていたのだろう。 スラムは良い。“内側”よりはずっとましだ。 何よりまず、「人間」として居られるのだから。
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