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本当に、ジャンク屋らしい煩雑と乱雑がごった返した店の中でメイは柔和そうな様子で見遣る。店の中をあちこち改める手は止めていない。
「あらあらそうなの~~てっきりおませな案件かとばかり」
「はい?」
「デートのお店に選んでくれたとばかり……」
「突っ込みませんよ?」
まずは一息ついてもらおう。ハチは考えると同時に行動して、手近にあった丸椅子をメイに勧める。
メイはそれに気付いて「ありがとう~~」とか間延びした返事を返すと、少し難儀そうに腰を下ろす。ハチは困ったように眉根を下げて、
「大きくなりましたね、って言えばいいんですか?」
「うふふ、気にしてくれてありがとう~~一応、臨月なんだよ?」
「りんげつ?」
「あらあら、知らない? もうすぐ出てくるよ~~心の準備をよろしくね~~っていう期間かな?」
両手を少し膨れたお腹に置く。赤いチャイナドレス風のエプロンの下、自分以外の誰かが入っている場所を愛でるように。
ハチはその様子に、複雑そうな表情を浮かべる。複雑、というよりは、罪悪の面が強い表情。
「ごめんなさい……本当に」
「…………あらあら、うふふ。謝る必要があるのかしら? あの人はそれを望んでいないのじゃあないかしら。ハチくんが気にする必要は無いのよ」
そう言いながら頭を撫でてくるメイの顔付きは、柔和さを増しているように見える。けれど、無理に取って付けた表情だということもハチには分かる。
当時のことはよく覚えていない。事務所が爆発して、それに巻き込まれ、記憶も意識も曖昧なままだったから。
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