第4章

7/85
前へ
/614ページ
次へ
彼は目の前に居て、居たはずなのに、いつの間にか、それこそ煙のように消えてしまった。だから最後の姿も言葉も、なにも覚えていない。 ただ、一言だけ分かる言葉がある。何もかもががらりと変わった、あの日の朝に言っていた。あの人の言葉がひとつきり。 「━━ゴローおじちゃんはカッコよかったです……にーちゃんが言ってました。本当に、すごくカッコよかった、って」 「…………ふふ。そうね、それならきっと、彼も報われるよ」 メイは言って、優しく笑みを返した。ハチは堪えるように口を真一文字に結ぶ。 ━━どうして。 ━━どうして、だれもいなくなるの? ハチがそう考えた時、後ろの平積みした商品が盛大に崩れる。反射で振り返るハチは必然、乱雑な店内を更に掻き乱したヨルの姿を見る。 「うわ! これっ、まじ!? あの有名な土管工おじさん!? オリジナルの8ビット!?!?」 とかいう意味不明な台詞も吐いて、やたらとハイテンションで。ハチは呆れたように、一つに結んだ唇をへの字に曲げた。
/614ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加