第4章

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「あぁそうだ、ハチ坊や」 「坊やとか呼ばないでよ……」 「そうかいハチ坊や。注文の品は表にあるから取っておいで。最近は物騒だから、道中気を付けるんだよ? 追い剥ぎが出てるみたいだしね」 「追い剥ぎ?」 「それと、年寄りからひとつ忠告さね」 店主、麗々が小さく右手で指し示す。その手の平から何から、全てがしわくちゃのくせに、ぴんと張った指先まで淀みがない。 それが、自分を指していた。軽妙な雰囲気から一転、ちょっとした緊張をすら感じている。ハチは少しばかり背筋を正して、店主の言葉を待つ。 「おまえさんも若いからねぇ」 「……」 「こんな婆の忠言なぞ聞かないだろうが……」 「ッ…………!」 「おまえさん。 ━━二股は良くないねぇ」 「ハチ公はお座りだにゃん!!」 唐突な衝撃と、空気が身体から抜けていく音。こひゅん、とかそういう間抜けな音調を感覚。
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