第4章

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けれど、振り仰ぐ顔つきが、かなり妙な表情だった。敢えて言うなら、怯えているような。 ハチは聞く。 「なに? どうかした?」 「いますぐ戻ろう」 「は? あ、ああ、ヨルのところね。ちょっと待って、いま固定脚を……」 「ダメ! そっちじゃない!」 四つ足歩行━━作業安定の為の固定脚━━から、自走四輪のモードに切り替えるためのボタンを、ハチよりも早くミツが遮る。 ひどく、場違いなほど真剣な様子で。ハチは困惑したまま、伸ばした手を宙にうろつかせる。 「…………コードが違うの」 「は?」 「さっきの……あの人の通信……いつも私たちが使っているコードじゃないの…………このスラムでは、いいや“外側”の通信コードは全部同じ符丁で統一されているのに、彼女のは違うの…………どんな符丁も、どんな媒体にも符号しない…………こんなに“気持ち悪い”のは初めて………………」
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