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星純のしみじみとした独り言を、律儀に返す人影。けれど、返答の仕様は言葉ではない。
両手持ちの大きな画材、ループリングまで付いているから、そう言って良ければスケッチブックの類いか。それに手ずから、文字を起こしてこちらに見せてくる黒髪三つ編みの女生徒。
自前で記したら言葉の上に、“ヤヨイ=ブランシュ”と自分の名前を載せて。おっかなびっくりといった風情で、フリップみたいに立てた画材の後ろに、顔が半分隠れていた。
一応、初見ではない。話したことはないが、見たこともあるしお互い顔もわかっている。分かっているが、星純は少しばかり戸惑っていた。
人物像、というか。知っている第一印象といまの彼女が、随分とかけ離れている。
「おまえさん、確かレオンに飛び蹴りかましてたよな?」
『そんなことはしてません!』
いやしてたから。この目で見てたから、と。取り敢えず、そこまで追い討ちは掛けないでおいて。
視線はひとまず、となりの知り合いに移す。
「なに? カノジョかなんかか?」
「腐れ縁だ。俺からすれば………………え、いまなんて言った?」
見事に反応してくれるのはとてもありがたい。星純は大袈裟な様子で首を縦に振る。知り合いーーレオン=ヘイズは不服そうに表情をひきつらせ。
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