第4章

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 『お? そうか? 分かってるねぇそこのおなごや』  随分上機嫌な様子で、声を出しているのはスケブの方だ。ヤヨイは殊更顔を赤くしながら、喋る画材の裏に隠れている。  なんとも、状況がちぐはぐだ。星純はひとりだけ、怪訝な様子で辺りを見回す。  ほどほどに騒がしいテーブルなのに、あちこちの誰もが黙々として資料に没頭している。昔から、図書館だの図書室だのは絶対安静の掟があると、読書好きの婆さんから聞いていたけどここでは違うらしい。  なにせ、画用紙が綴じられた冊子自身が喋るのだから。掟を破ると即ブッチ(読書婆さん談)のペナルティがある『ソドム』の図書館とは違って、色々と寛容らしい。もちろん、そんな高尚な空間などスラムの何処にも無かったけれど。  そしてブッチって何だ。  『ともかく、アタイがこれじゃあ仕様がないねっ、と』
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