第1章

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ミツもそれを分かっているのか、声はかけるだけに留めて、其処から先に進もうとしない。手も触れられないでいる。 怖いから、諦めているから、ではなく。今のハチが何を考えているか、ミツにも良く分かっているから。 だからもう、十回は繰り返していた。成り立ちようのない、言葉のキャッチボール。 「もう、帰ろうにゃん?」 「……にーちゃんは帰ってない」 ようやく、といった風情で、ハチが口を開いた。他に言うべき台詞もあるけれど、今言いたいことでも無かった。 いま、必要なものとは違う。あれもこれも。そんなことは、最初から分かっている。 全てを了解してーーとはいえ、ただの拙い子供心に、了解も何も無いけれど。未だにあの夜、あの場所で起きた出来事が、ハチには何一つ理解出来ないでいるのが良い証拠だ。 しかしこれは、いまのハチにとってある種の希望と成り果てている。ただの、絵空事な直感だけれども。
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