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風が巻いた。星純も溜め込んだ力を素直に解き放つ。そこからは一瞬だ。
打ち出す豪腕は地面に突き刺さり。
リリーは最短で間合いへと切り込み。
星純は盛大に倒れ伏した。
「ッ!!」
身体の前面を袈裟斬り。真っ正面から、堂々と。
しかも練り上げた風速に乗って、最速でリリーは振り切った。手加減無しの斬撃が、星純の肉体を打ち据える。
「…………」
リリーの両手には手応えだけが残り、戦慄くような剣の残韻は徐々に小さく消えていく。肉や骨、衣服を滑る感触、あるいは命の手触り。
と、その直後に。バタバタと、吹き抜けに留まっていた鳥達が飛び去っていく。
リリーは黙ってそれを見送る。朝靄も晴れかけた青い空に、白や灰色の影達が溶けて消えた。
彼がしっかりと、斬り倒されてから飛び立つ。また随分と、空気を読んだ演出ですねと、リリーは皮肉めいた感覚を覚える。
この静寂の中なら尚のこと。
「ーーこれで良いのか?」
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