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「ええ。使い魔も、今しがたすべて帰途に着きました」
リリーがくるりと大剣を操り、背中に納める。鞘らしい物も見えないけれど、あれはどうやって引っ付いているのか。
原理は良く分からないが、魔法の一亜種なのは間違いない。それは今、こちらの上半身を斜めに走る刀傷にも言えることだ。
「まったく、派手にやりやがって……ッ、かなり痛いし」
「仕様がないじゃないですか~~? 騙したなんて知られるわけにいかないですし、演技にしても真に迫るものがないと♪」
先ほどの真剣味が嘘のようにーー実際は嘘だったのだけれどーー、ケロリと表情を変える。いつも通りの、リリーの微笑だ。
人様を騙くらかした後だというのに、緊張感の余韻もない。リリー自身に緊張する理由が無かったからかも知れないが、付き合わされた方としてはたまったものじゃない。
まさか、実力行使で恭順させる算段とか。しかもそれを即席の、録に打ち合わせもない演技で乗り切るとか。
しかも気付いたのは斬られる数秒前。リリーの言い回しと雰囲気だけしか、ヒントの無い状態で。
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