第1章

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分からない、理解出来ないのなら、そこにはある筈だ。逆接した場所に存在する、理解出来ないからそこの、別の可能性が在る筈だ。 「にーちゃんが帰るまで、オイラ帰らない」 「でも…………でもにゃん、はっちゃん」 「帰らない!」 一際、きっぱりと。意固地に肩を強張せ、首筋にはまるで要らない力みが生まれ。 自分一人で出来た殻に閉じ籠り、しかし屈折した身体の隙間から、曇り空に遮られた西日が見える。煩わしく思えたハチは、瞼までもきつく閉じた。 景色を造る光がなくなり、代わりに浮かぶのは燃えた街。あるいは、壊れた家であり、デタラメな図体の化物であり、身体の何割かを削がれて倒れる人々であり。 その上で、最後に映るものがひどく健やかな、清々しいほどの笑顔なのは、一種の悪夢に近い話だ。刻まれた残像は消えない。 だから、こうして消えない残像を拭うように、ハチは必死にあの壊れ果てた街を掘り返していた。街が壊れた時からずっと、誰よりも早く、長い間。
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