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借りに誰の責任か、とか言い出したとして、彼女が聞く耳を持つとは思えない。ならば差し当たり、問題なのはワイシャツに残された余白地の容量であり、絶賛侵食御礼中の袈裟に撫でられた傷口だ。
医者が要る案件。けれどそれらしい人影も、人の気配もない。
「おれは早いとこコイツを治して貰いたいんだけど……」
「大丈夫ですよ~~もう見えますから」
リリーが視線を別に向ける。目の前にある療術院から、その真反対にある道の先。
今居る道の反対側だ。着いた直後からへたり込む星純は、難儀そうにそちらへ首を傾けた。
「おうボウズ! 元気そうだなオイ!」
見覚えのある恰幅が、見覚えのある塩梅でそこに居た。がっしりとした体格に深い色の赤毛、なんとも定型に過ぎるあのキャラバンの親方が。
あれからそう何日も経っていないのだから、居姿に変化が現れるわけもない。だからガハハと豪快な気風も、年相応に張り出たビール腹も顕在だ。
なのに、妙に正装だ。まったく正しい意味での、状況に応じた装いとしての正装。
親方は白衣だった。
まるで似合わない。
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