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脇の下からそつなく油断なく、自分の腕を滑り込ませるテクニックに、熟練のものを感じた。こういう完璧に極るホールドは逃れられないが、かといって、向こうに危害を加える腹積もりも無い様子。
かと思いきや。
「よっこらせ」
ズギャンッ、みたいな効果音と共に。星純の脳天は、舗装された石畳の地面に叩き込まれる。
まさかの予想外、いや予想されて然るべき結果が、まさかの医療従事者から突き付けられる。全くもって綺麗に繰り出される、ジャーマンスープレックス。
起きてからずっと、まるで意味不明な展開が過ぎる。しかも綺麗に決まったスープレックスに、軽く意識が飛びそうだ。
「ほい、治療完了」
「…………はい?」
さらに不可解な台詞で、親方はホールドを解いた。身体の叩き付けられた衝撃は凄まじく、ちょっとしたクレーターみたいに石畳を破壊しているのに、何故だかどこも痛くない。
どころか、身体が軽くなったような気すらしてくる。星純は杭のように打ち込まれた姿勢を正し、怪訝そうにあちこちを触って確認する。
「なんか、痛くないよ?」
「そりゃそうよ、治療だからな」
「今のが!? 今のどこに治療的要素があったよ!?」
「“叩き出した”んだよ、オッサンの治癒魔法でな」
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