51人が本棚に入れています
本棚に追加
/614ページ
さて、そうこうしている内にリリーが立ち去り、結局星純は舗装された赤レンガの道に取り残される。ものの見事に、カタにハメられたわけだ。
とはいえ、形式上は抵抗してみたけれど、リリーの言うことにも一理ある。身体を清潔に保つのは良いことだ。
『ソドム』では、洗濯なんて5日にいっぺんくらいで良かったのだけれど。文化の違いは思いの外つらい。
「……もし、そこの方。もし」
星純が勝手に落ち込んでいる、その背中に声が掛かった。か弱くて、消え入りそうな枯れた声。
星純が首だけ振り向いてそちらに寄越す。人影がひとつ、星純を見下ろす形で佇んでいた。
ぼろ布をマントみたいに羽織り、しゃがれた声で話し掛ける小人。第一印象はそんな具合で、目深に被るフードが更に人物像をぼやけさせる。
けど、多分老人だ。それも老婆。腰の曲がった矮躯に、何処で拾ったかくたびれた杖を付いて、手足の露出する肌が皺に包まれている。
最初のコメントを投稿しよう!