第1章

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さて、そうこうしている内にリリーが立ち去り、結局星純は舗装された赤レンガの道に取り残される。ものの見事に、カタにハメられたわけだ。 とはいえ、形式上は抵抗してみたけれど、リリーの言うことにも一理ある。身体を清潔に保つのは良いことだ。 『ソドム』では、洗濯なんて5日にいっぺんくらいで良かったのだけれど。文化の違いは思いの外つらい。 「……もし、そこの方。もし」 星純が勝手に落ち込んでいる、その背中に声が掛かった。か弱くて、消え入りそうな枯れた声。 星純が首だけ振り向いてそちらに寄越す。人影がひとつ、星純を見下ろす形で佇んでいた。 ぼろ布をマントみたいに羽織り、しゃがれた声で話し掛ける小人。第一印象はそんな具合で、目深に被るフードが更に人物像をぼやけさせる。 けど、多分老人だ。それも老婆。腰の曲がった矮躯に、何処で拾ったかくたびれた杖を付いて、手足の露出する肌が皺に包まれている。
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