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声も、男のそれにしては少々高い。星純は身体を半回転させて、やせっぽちの老体と向かい合う。
「何か用かい? えっと、婆さんで良いよな?」
「ええ、ええ。そうですじゃ。あぁ、良かった。この所、若者にゃあ素っ気なくされっぱなしで、儂の話をとんと聞いては貰えませんのですじゃ」
慇懃無礼に畏まり、老婆はゆるりと体を寄せる。難儀そうに杖を手にして、器用に星純の打ち据えられたクレーターを避けて。
「実はの、儂は息子夫婦に会いに片田舎から出てきたのじゃが、都の事がとんと分からんので困っとるのですじゃ。あんな大勢の人も見たことがないし、こんな大きな建物も初めてで、中々心臓に悪いと思いましての」
「あ、はぁ……」
困っているのは分かる。いわゆる、お上りさん特有の困惑だ。
初めて見るもののインパクトに、挙動不審になるやつ。スラムのは基本、恐怖でびくついてるお上りさんだが、端から見たら大体同じか。
でも、この会話の流れは不味い。
「息子夫婦も多忙で困っとるのですじゃ。そこで「無理です出直して下さい」まだ何も言ってないよね?」
どーーせここからお上りさん特有のあれがあるのだ。観光名所案内して下さいとか、美味しいお店紹介して下さいとか。
割りと真面目に、切実に冗談じゃない。まだこの街の全容すら掴めない間に、案内もくそもあったものじゃない。
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