第1章

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それで困るのはこちらだけど。どうしたものか、返礼はやっぱり握手とかなのだろうか。 「……菓子折りとか付けた方が良いか?」 「菓子……? あるのですかの?」 「………………じゃあ握手で」 何もかもこちらの落ち度だが、素で返されると傷付くのだ。せめてそれを沈黙で分かって欲しい星純は、申し訳なさそうな表情も含めて右手を差し出す。 「ーー」 そこで、何を思ったか。 星純は伸ばしかけた右手を、まっすぐ真横に薙いだ。 空を切り、瞬間的に、何もない空間へ。 星純の拳が飛んだ。録に見もせず、当てずっぽで、どころか何もありはしないのに。けれど何故か、何かを確信して星純は裏拳を飛ばした。 「うん? うぅん?」 自分でも、理由が分からない。何かを感じ取った気もするし、気分だったのかも。どちらにしろ、その動機たらしめる根拠は最早、星純の身体の何処にも存在しない。
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