第1章

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*** ひょこり、ひょこり。街の中を行く影は、上背の小さな身体を難儀そうに引き摺る。杖を付き、石畳の起伏をゆっくりと。 赤レンガ造りの建物があり、白亜の奥ゆかしい尖塔も目立つ。単純な石造り、背丈のまばらなアパルトマンの可笑しさが風情を醸し。 無数の隘路、ロータリーから延びる岐路。街の中枢を穿つ運河は生活を支え、町外れの巨大な城塞は荘厳な佇まいに霞んでさえ見える。 老婆は、フードの奥からそれらを見回した。街区として、優美に勇壮に整えられた街並みを感嘆し、灰色い商店の看板を左に曲がった。 先は小さな小路だ。建物の間隔が狭い。両脇の建築は、赤や青や色彩に溢れる民家に物売りとなっていて、高さもバラバラに建てられる。 その華やかさとは裏腹、日の傾きが作る影に不穏を感じる。それもまた、ひとつの街並みとして受け取れるにしても。 老婆は歩く。暗がりを縫い付けるよう、ジグザグの道を這うように進み、やがて目当ての建物を見た。 簡素な一軒家。くすんだ黄色の土壁に、四角い窓を幾つか設えた二階建て。老婆はちらりと二階部分を見上げた後、皺だらけの右手が玄関を押し開ける。
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