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穏やかな、あるいは淀んだままの鈍い日差しを横顔に当て、綺麗なままのダークスーツに黒の長い髪が流れる。色白の、整った顔付きからは、常に微笑を浮かべる様な細い目が伺えて、両目ともきっちりとハチ達を捉えて見据えている。
「……龍ちゃんさん」
「ハハハ、「ちゃん」で良いよ、ハチくん」
下手に合体した、キテレツな呼び掛けを気にも留めず。京極・ルチアーノ=龍二郎はひどく健やかな笑みを溢す。
退廃した都市に、外輪に広がるスラムに、健やかさも何もあったものじゃ無いけれど。その上、こうして丘の天辺から望める景色が、ぽっかりと穴の空いた廃墟跡なら、なおのことだ。
龍二郎は杖を突いて、登りなれたはずの傾斜をゆるゆると歩いていく。何時かの、化け物に潰された脚。ここでも、やはり健やかさとは無縁の状態。
妙にシュールな気分にもなる。龍二郎のそんな内心と、裏腹な少年少女は訝しげな視線を投げた。
「ミツちゃんが迎えに行ったのに、随分と帰りが遅いからさ。何かあったんじゃないかと思ってね」
「別に。ここに居るだけだし」
「こらはっちゃん、ダメだよ。龍二郎にゃんに失礼でしょ」
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