第1章

61/91
前へ
/614ページ
次へ
「日常生活を演出する、最低限度の無礼以外は認めない。そう最初に告げた筈だ」 「いやいや曹長。お帰りなさいの挨拶くらいはフランクじゃないとダメですって。ご近所さんに怪しまれますよ」 「誠意の問題だと私は言っている」 「でもバレたら面倒ですよ? “また”処理しないといけなくなりますし」 間仕切りの向こう側を覗けば、そこはキッチンだ。四人掛けのテーブルがあり椅子があり、食器棚や概ね揃えられた調度の中を、ひとり巨漢が歩く。 スポーツ刈りのブロンドを揺らしながら、厳めしい顔付きが柔和な調子で向けられる。Tシャツ短パン、その上ピンクのエプロンまで纏っている様子はかなり奇っ怪なものと見えた。 「また料理か。『ソドム』で出来ないからと、ご苦労なことだなグレゴール」 「いや、マジでこっちの食材の出来が良いんですよ。肉野菜魚介類その他諸々……『ソドム』の人工合成タンパクとは大違いなんですよ? 料理番としては、ちょっと腕鳴りますって」
/614ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加