第1章

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━━それから一週間が経って、現在地はいつかのすり鉢みたいな教室。形状も、シックな装飾もそのままに、至るところで人垣が出来て駄弁りな華を咲かせている。 下手にだだっ広いのに、どうしてか人の声は良く通るものだ。五月蝿いやつ、笑い声、ひそひそ話。人間の音声というやつは、聞きたくもないやつにまで内容を聞こえさせる音調がある。 その最中に、楕円を描いた長机の端っこに、星純は突っ伏して項垂れている。次いでについた溜め息が、忌々しそうに教室の空気へ消え失せた。 「あらあらあら。まったく、今日が最初の授業日だと教えましたよね? 寝てないのですか?」 心配しているのか、たしなめているのか━━多分心配しているのだろうリリーが、星純の頭の上から声をかける。星純はどうにか首をもたげて寄越すけど、気だるげな感を隠さない。 言われた通り、疲れてるのは確かだ。ついさっきまで品出しの手伝いをしてたわけだから当たり前。だけどその憂鬱には、もっと大きな理由がある。 「……元はと言えば、アンタの説明不足からくる事態なんだが?」 「む、むむむ……だっ、だってですね! わたしとしては冗談で言ったつもりなんですが、まさか鵜呑みにするとは! ビックリですよ!」 「こッッッッちがビックリだわオイ!! いたいけな田舎もん騙くらかして楽しいの!? 純朴な一般男子生徒の純情を弄びやがってからに! 自分で言うのもなんだけどさァ!!」 「たかが口約束で商取引できるわけ無いじゃないですか! それに何か訳知り顔でしたし、大丈夫だと思ったんです!」
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