51人が本棚に入れています
本棚に追加
だが、見たこともない知りもしない仕事を、唐突には出来ない。下積みや予習が必要だし、何よりこっちの世界に関して言えば、この身は赤ん坊にも劣る初心者だ。
魔法を使える、兆しさえない。あの掌は自由に出し入れ出来るけど、ぶっちゃけ日常生活ではマジックハンド並みの使い道しか存在しないし。与えられた仕事には、もちろん魔法ありきで考えられた仕事もある。
「もう、素直にクビになった方が身のためではないですか?」
「それは、やだな。おれのポリシーに反する」
「ポリシー?」
「一度受けた仕事は投げ出さない、それは最低限のルールだ」
「それは……そうですけど…………」
リリーは、何か釈然としないらしい。自分の責任というのもあるのだろうけど、打開案が必要なのも確かなことだ。
魔法が使えない知らない、その上魔法と判別されない術が使える男。そんなのがあちこちの店で悪目立ちすれば、あっという間にボロが出る。異世界人としてのボロが。
それは避けるべきだと星純も分かっている。だからこうして唸りながらも、どうするべきかを考えているのだ。出来る限り、クビにならない方法で。
その気配を察してか、リリーは星純の隣席に腰を降ろした。そこは多分、アンタの席ではないと言うべきなのだろうけど、あるいは親身の表れかも分からない。
最初のコメントを投稿しよう!