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しかもいよいよ、周囲からの視線を集めだして尚痛い。その上視線の性質が、明らかに痴話喧嘩へ向ける生暖かいやつだから余計タチが悪い。
これも彼女の策略だろうか。やけに目が据わっているから多分違うのだろうけど、天然でやってるのだとしたらそれも問題だ。
まあ正直、どうでも良いけど。うん、どうでも良い。星純はそろそろ、本気で自暴自棄になろうか考え出す。
「……何をやっているんだ、君達は」
あきれ声、星純もようやく聞き慣れてきたクールな調子。星純とリリーは、同時に声の方向を見遣る。
浅黒い肌と、紺色の瞳と髪と。クリーム色のカーディガンに赤いマフラーも添え━━しっかりと色を意識したのはこれが初めてだ。
垂れた両目が、一層と呆れ気味に下がっている。マフラーで隠した口許まで見て取れそうなほど、サシャ=アーセファは怪訝に眉根を潜めていた。
「あ! サシャちゃん! おはよございます!」
「痴話喧嘩なら外でやりなさい」
「痴話でも喧嘩でもねーよ! 敢えて言うなら現場だよッ!」
「これは皆の意見だから。多数決に従いなさい」
「このくされ民主主義がァ!!」
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