第1章

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一分のズレもなく、星純の眉間を 正確に捉える石灰。身を乗り出した勢いも相まって、かなり精妙なカウンターが脳みそを揺らす。 「私語は取り立てて注意しねぇから安心しろ。口では、という意味だが」 倒れたのは生徒が一人。倒したのはチョークがひとつ。端的に提示される事実はつまり、単純な説得力を生むわけだ。 ガヤガヤと騒がしかった空間は静まり返り、立って歩いて駄弁った連中は無言のまま席に着く。余程恐ろしいのか、どいつもこいつもバツが悪そうに俯いていた。 リーゼント教員は、その様子に満足を示す。それで良いと言わんばかりに、高楊枝がひょこひょこと上下した。 動転していた意識と気持ちを元に戻し、星純は弾き飛ばされた上体を起こす。視線の先は、目測10メートル強は離れた教卓。 「んじゃ、静かになったしこれからの事を説明をしてやる。有り難く傾聴しやがれやコラ」 言い方が不遜にも程がある「貴方もあんな感じですよ?」何か隣から雑音が聞こえたが気にしない。 とにかく、リーゼント教員はドスを効かせた声音で言って、肩に担いだ木刀で黒板を指した。合図のように、優しく表面へタッチすると、受け皿から幾つかのチョークが飛び出す。 タネも仕掛けもない、物体の移動を指揮する単純な魔法。この一週間で何度もみた。 理屈は分かっているけれど、やはりまだ慣れない。だから。 「おぉ凄ゴスッ……ぅ、おう。いや、アクビだし」 おお、すげえ。そう言い掛けて、隣席から肘鉄。やっぱりそこがアンタの所定の位置なのかと、思う間もなく口をつぐむ星純。
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