第1章

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けど、全部を捨てるわけじゃない。「何度も言うけどッ!」と、まだまだ分類上は大声で通じる威勢で以て、ハチは告げる。 「オイラは! にーちゃんが戻るまで帰らない! 分かったか龍二郎!!」 「………………………… …………………………呼び捨て「さん!!!」」 過程はどうあれ、である。過程はどうあれ、どうにか意思は伝える事が出来た。過程はどうあれ。 しっかりと名指し、その上過たず指まで使って個人を特定。やれやれと言ったふうに、龍二郎は呆れた溜め息を漏らす。 「そうやって我が儘を振り回すのはとても微笑ましい限りだけど、叶わない願いに身を託すのはあまりに……憐れだ」 諭すような口振りで、聞き分けるように龍二郎は言う。そこに含められる物事は、実に端的だ。 ハチも、言葉を交わさないミツもまた、理解した上で口には出さない。ここでの会話は、お互いにそうであると確かめる類いの、そういう話ではないと知っている。 「ーー彼は死んだよ。何のレトリックも無く言わせて貰えば、跡形も残さず」 つまりこれは、子供の為の理不尽な時間だ。大人から、当て付けがましく用意された。 現実の残酷さ、それはもう十分に理解しているのに、彼等は何時だって同じことをする。それらは抽象とした感覚となり、ハチとミツへ響かせた。
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