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そもそも『ソドム』でさえ、こうした音調の名前は多くなかった。色んな国の色んな言葉が、それぞれの慣習で子供を名付け、結果あまりに多様な名前が増えすぎた。
だから名前の標準的なトレンドなんて無かったし、押し並べてそれらを変える理由もなかった。しかし此処にきて、長年連れ添ったそれを変えろという。
「どうしてだ? 理由は?」
「ここは〈セント・マリア魔法学院〉です。全世界的に見ても五指に入る最優の学校です。けれどそれと、歴史の瑕疵は違うもの」
「歴史の瑕疵?」
「いまから、もう80年は前ですか……本当にひどい戦乱が世界を覆ったのは」
滔々といった語り口で、リリーは話を始めた。紹介の順番は、丁度前二列が終わった辺りになる。
「さる王国の継承者を遊行中に暗殺、その報復攻撃により開かれた戦端、無秩序な戦線の拡大とそれに伴う参戦国の増加……圧倒的な混沌が戦争を、世界をも支配した、そんな時代があったのです」
「そりゃ、何て言うか……災難だな」
「ええ。そしてその中心に居た人物の名が、貴方の名前と良く似ています。暗殺者、戦乱を仕組んだ張本人、そして彼の産まれ育った国自体が主戦国として記憶される、そんな戦争の」
「大袈裟な。そいつとおれの名前がまる被りだとでも?」
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