第1章

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「だからこそ、逆説的に有り得ると思いますよ。わたし達のような思考もあれば、逆もまた然り、とね」 「……気遣いが過ぎるな、アンタは」 「至極、円満な学院生活を望んでいるだけですよ。特に貴方は、何をしでかすか分からないですし」 そこまで信用が無い、か。危険なのは理解してるけど。 「誰が何を考えているか分からないのは、どの世界だって同じはずです。ならば貴方を害する者がいてもおかしくないし、それはわたしの望むところではありません。それだけの話です」 キッパリと言い切る、リリーの意思は固いらしい。しかも筋は通っているのが、実に厄介だ。 王族殺し。しかも国民の崇敬を集めるような人を殺す。そこに託らむ感情は推して知るべしなのだけれど、もっと分かりやすく解釈すれば、きっとこういう事だ。 親殺し、子殺し。そういう類いの憎悪。 なるほど、ならば名前を変え、適当にジョンだのなんだの名乗れば気は楽だろう。そっちの方がずっと堅実な生活が送れるし、現実的な手段だ。 ここには憎しみが、怒りがあるのだから。常に溢れることは無くとも、時も場所すら選ばずに、そうした感情はいとも容易く漏れ出てしまう。半世紀以上も経っているのに。
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