第1章

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いや、半世紀以上も経っているからこそ、なのかもしれない。あちら、というか『アルビオン』の皆々にとっては、それは未だに癒えない傷なのだろう。 「じゃあ次だ。五列目。そこの、あの金髪ちょんまげ」 何時の間にか、自己紹介はつつがなく進んでいたらしい。前列、右斜め前くらいにサシャが居たけど、無事に自分が終わっているからか目も寄越さない。 それはともかく順番だ。おいおい、もうかよ。星純は仕様がないといった風情で、薄くため息をついた。 仕様がないから、ここはリリーの言質に則ろう。傷は癒えず、憎しみは止まず。ならばそれを━━殊、自分とは関係の全く無いそれらを受け入れる意味なんて、最初からない。 星純は重苦しそうに腰を上げ。 「鬼塚星純って言いまーす。ド田舎から来ましたー。趣味と特技は人と仲良くすることですー。よろしくお願いしまーす」 静寂、注目。うん、上出来だ。 なにせ、それくらいの面罵じゃ傷も負わない。死ねだの糞だの殺すだの消えろだの目障りだの、クズだのカスだのゴミだのなんだのエトセトラ。 それとセットの━━というか、確実に比率が多すぎる暴力との抱き合わせ。殴られ蹴られ、憎しみの質は違うけれど、謂れの無い憎悪は慣れきっている。
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