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それからしばらくして妻は退院した。
後は何度か病院へ通いながらその時を待つだけだ。
妻は驚くほど落ち着いていた。死への宣告が近づいているかもしれないのに、普段と変わらない笑顔を俺に向けてくれる。
俺に気を遣って普段のままでいようとしてくれているんだろう。だから俺も特別なことをせず普段どおりに接していた。
妻のお腹はまた少し大きくなっていく。
その度に嬉しさとどうしようもない不安が押し寄せてくる…
しかし俺は絶対にそんな気持ちを顔に出さないように気をつけていた。
それから…俺は週に一度くらい病院にいるあの婆さんに会いに行っていた。
話す内容は妻の経過(と言っても今のところは順調に育っているようで特に話すことはなかった)や生まれてくる子どもにこうなってほしいだとかこんな風に育ってほしいだとかを話していた。
そして、俺のおばあちゃんとの思い出も少し話していた。
おばあちゃん家で食べていた焼き芋が美味しかっただとか一緒にトランプをして遊んだとか婆さんにとっては全然関係のない話だけどいつも変わらない穏やかな笑みでうんうん話を聞いてくれていた。
ある時俺は婆さんに名前を聞いた。
婆さんは頼子さんと言うらしい。
俺は頼子婆さんと呼んでいいか聞いた。
婆さんは「もちろんよ」と答えた。
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