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「恵美…」
俺の足は病室にいる妻の元へと向かっていた。
「大丈夫、さっき話は聞いたよ」
声を掛けると妻はそう言って弱々しく笑った。
違う。いつもの屈託ない笑顔ではなく俺に気を遣ってるような自分の気持ちを押し殺すようなそんな笑顔だった。
「そっか…」
駄目だ。こんな時どんな言葉を掛けてやるべきかわからない。そもそもついさっき宣告されたのだ。
俺自身まだ頭の整理がついていなかった。
妻の寝ているベットの隣に椅子を置き腰掛ける。
しばらく沈黙が流れる。
「どうしたの?あなたらしくないよ」
そう言って妻は俺の顔を覗き込む。
心配そうに、瞳をうるうるさせながら。
何言ってんだよ!こんな時まで人の心配ばっかして…俺のことなんか心配してる場合じゃないだろ…
涙が溢れそうになり俺はぐっと唇を噛み締めた。
本当に情けない夫だ…
「私は、大丈夫だよ…」
そう言って妻は下を向く。
妻の身体は少し震えているようだった。
「大丈夫って…」
「もう…決めたから…」
妻は両手をぎゅっと握りしめていた。その姿がいつもより小さくか弱く見えて…触れたら折れそうなほどにか弱く見えて…
俺も下を向いてしまっていた。
「私…産むから!」
妻はさらに強く両手を握りしめて俺に言った。
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