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八坂は父親と二人、穏やかな光の差す縁側に座っていた。
早くもお茶請けに出された観月屋のゆきんこ饅頭を父親は手にしている。
ゆきんこ饅頭は役宅内でも人気は高い。
同僚である岡崎はこれを好物としていた。
丸く、雪のように真っ白くふっくらと柔らかい皮に、ほんのりとした甘さの餡が入っている。
ただそれだけの単純なものではあるけれど、これがまた「たまらぬ美味さ」なのだそうな。
「そんなに似ているのであれば、一度はお会いしとうございます。その、彼はどちらへ?」
八坂は饅頭には手をつけず、湯飲みに口を付けて傾けた。
息子の期待とは反対に、父は少し申し訳なさそうに眉をハの字にすると、
「残念だが、今は実家へと戻っているよ。私が帰したんだ」
父の話では、その件の彼には育ての親ならぬ育ての叔父がいるそう。
ここ数年、病気がちなようで、その叔父を助ける金を稼ぐために仕事をしているのだとか。
住み込みで三ヶ月も昼夜問わず、一生懸命働く真面目な青年らしい。
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