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熱心に働くというより、無理して働き詰めているようにも見えたので、八坂父は心配して数日の暇を出したそうだ。
何より、彼の叔父の具合がどうも良くないらしい。
余計に心配になるのが医者としての性(さが)というもの。
「それはまた……ここへ引き取るというのはいかがでしょう?」
「私も勧めはしたのだが、頑なに首を横に振られてね。彼はもう家族同然なのだから、遠慮なく甘えて欲しかったのだが……」
残念そうに息を長く吐いた。
「無理強いするわけにもいくまいて」
「そうですね」
それきり、二人は黙ったまま茶を飲んだ。
「そろそろ戻ります」
八坂蒼士は立ち上がると、花守乃舞波割(はなのまい・なみわり)二尺三寸(約七十センチ)を帯へと差す。
「もう行くのか」
名残惜しげな父に、息子は返事の代わりに微笑んだ。
そして、彼は縁側で草履(ぞうり)を履くと、裏口へと向かって行くのだった。
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