12人が本棚に入れています
本棚に追加
空は茜色に染まってい、建物も同じように染め上げられている。
寄り道などもせず真っ直ぐに戻って来た八坂は役宅の門を潜ろうとしていた、その時、
「八坂……か?」
驚いたような声が耳に入ってきた。
振り向くと、与力の神倉巌ノ助(かみくらいわのすけ)が編笠に着流しという浪人姿で立っていた。どうやら、市中見廻りを終えて戻ってきた所なのだろう。
「神倉様、そのように驚かれまして……いかがなされましたか?」
「いや、先程、お前とすれ違ったばかりなのだが……気のせいだろうか?」
八坂は、それは父の言っていた自分に似ている男だと直感した。
「どちらで私と似た者とすれ違いましたか?」
「明神通り……」
明神通りは、八坂が来た道とは正反対に位置する。
そんな場所で出会ったはずの部下が、どうして逆方向の道から現れ、こうして顔を合わせることが出来ようか。
これには神倉が驚くのも無理は無いだろう。
最初のコメントを投稿しよう!