浅田先生の場合

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 適当にササッとマーガリンを塗った食パンを口に含んで咀嚼し、飲み込んではまた口に含む。それを数回繰り返してようやくバナナに手を付ける。  皮を剥いてそれもかぶりつき、咀嚼して飲み込むことをただひたすら繰り返す。  食べ終えたら急いで簡単に歯を磨いて家を出る。ここまで僅か十五分ほど。  この頃から、また腹に違和感を覚える。今度ははっきりと分かるほどに腹痛という、いらぬおまけ付きで。  グルグル、きゅるきゅると引っ切りなしに鳴る腹と酷くなる痛みに顔をしかめながらも、目の前に見慣れた後ろ姿が見えたので声をかけることにした。話をしている方が気が紛れるかもしれないから。 「清水先生、おはようございます」 「あ、浅田先生。おはようございます」  それからもいくつか言葉を交わしたが、やっぱり会話している方がまだマシだ。俺はそんなに口が上手いわけではないけど、この痛みをどうにかしたい一心で会話が途切れないように話しかけた。  願わくば、この腹の音が清水先生に聞こえていないことを祈った。
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