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「お前本気で噛みやがって、指が歯型どころか血塗(ちみど)ろなんですけど」
「まずい」
吐き捨てるような暴論に光は頬を引き攣らせる。この「神子」称号を得た少女には神々の慈悲深さが欠片も伝播されていないらしい。
最も称号に神の子とあるだけで彼らが育てた訳ではないし、神々は慈悲深(あま)いので育児をしても禄な子供は育たないと思うが。
「お腹すいた」
それにしたってふてぶてしい。「魔王」たる彼が思うことではないのかも知れないが。
「セーレ」
「御用でございますか、我が君よ」
「食事の用意をしてやれ」
「ここに」
「はっや」
先程までなにもなかった空間に、いつのまにやらテーブルが置かれており、そこにはトースト、スクランブルエッグ、サラダと朝食が並んでいる。
「コーヒーはブルーマウンテンの豆から挽かせていただきました、神子様の紅茶はアールグレイのセカンドフラッシュです」
片手を胸元に当てての一礼。銀色の髪がさらりと揺れて、その間から黄金に輝く目が覗く。
「すごー」
「恐縮です」
神子の腑抜けた声にも生真面目に返す、執事服を来た女性。セーレと呼ばれた彼女は現在この屋敷に存在する唯一の魔王の眷属だ。
神子が子供らしく我が儘を言い、光るが窘めてセーレが世話をする。この屋敷においてはいつものことだ。
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