愛しき君へ

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「_つまり貴女はこの手紙を読み、恐怖のあまり『梶川和彦』の出所を待ち構え、殺害に至ったワケですな」 「は、はい、いいえ。  “待ち構えた” だなんて」  分厚いガラスの向こう側で、女は儚く睫毛を伏せた。 「しかし我が探偵事務所への依頼者『梶川クマ』。  彼女は“そんなハズない”と言っています」 「でも、私は」  女は黒目がちな瞳から、ポロポロと涙を溢し始めた。  しかし男は涼しい顔で続ける。 「実は彼、近頃殆ど目が見えてなかったんです。長い獄中生活で視神経をやられたそうで」  彼女の肩がピクリと動く。 「ストーカー行為の果ての殺人未遂。5年前、確かに貴女は怖い思いをされたでしょう。  しかし_  ねえ、手紙は本当に“最近”受け取ったものですか?」 「…………」 「また来ます。 だが…必ず暴いて見せますよ」  去りゆく男の背中に、女はうっすらと、微笑んだ。 了
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