第二章  凶行

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 二人が酒を飲みながら話をしてから三日後。また動画が届いた。  それで東京地検は大騒ぎになった。  今回はもう、捨てては置けない事態だ。  今回の被害者役は、猿の検事の妻だ。  チンパンジーとゴリラに連れ去られ、やがて引き裂かれた姿で川に浮かぶ。  犯行の凶悪さが、エスカレートしている。  地検検事の妻達のリストが作られ、今回は警視庁捜査一課が動いた。  其々に警官の警護がついたが、一週間たっても何も起こらなかった。これは只の脅しか、それとも悪質な嫌がらせかも知れないと思われた。  警護の手配はやがて緩められた。地検と警察の気が緩んだ頃に、その事件は発生した。  都内のマンションで、夫婦二人で暮らして居る高畠検事の妻が誘拐された。朝の七時半ごろだ。  夫を送り出した後。ゴミを出しに行ってゴミ収集場所の近くに前日の昼頃から止まっているワゴン車に、引き摺り込まれた。  高畠陽子(三十五歳)は、その黒いワゴン車が前日の夜からずっと止まっているのを見ていた。まさかと思い油断した。  警邏警官が巡回中に異変に気が付いた時は、その車は既に発進した後だった。  ドアが閉まり黒いワゴンが発進した後には、道路にゴミ袋が残されていた。異変を察知した巡回中の警官の通報で運よく車のナンバーが判明。 エムシステムを使った捜査が行われ、考えられるあらゆる方面に捜査の手が伸びた。  その一時間後にワゴン車は発見された。  当該車両は近くの開業医が、患者用に借りている裏通りの駐車場に放置されていた。  黒いワゴン車は、犯人が神奈川県で調達した盗難車両。監視カメラの無い駐車場を使ったえぐい手口だった。発見場所までエムシステムを避けている。  予め用意していた車で逃走したと見られ、足取りは途絶えた。  捜索は困難を極めた。  二日後。横浜港に陽子の絞殺死体が浮かんでいるのを、釣り人が発見する。  事件は最悪の結果を迎えた。  今回の被害者も性的暴行を受けており、絞殺されて二十時間以上経過していると検視官が見立てた。  「警察の面目は丸潰れ」、手厳しいマスコミ報道が連日のように流れる中、また新しい動画が届いた。  今回は、地検の植え込みに放置された紙袋から見つかった。
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