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氷のような女検事と言うから、どんなにか取り澄ました扱いにくい女性かと思っていた。
だが意外と普通の人間だ。話し掛ければ気安く受け答えもするし、話題も豊富で面白い。いささか驚きを感じていた。
生活も全く普通らしく、一人暮らしの不便さを語ったりもする。何より自分の美しさに自覚が無いらしい。
だが最近の地検に起こっている事件に触れることを断った時の彼女の鉄壁のディフェンスには、やはり“氷の女”を垣間見た思いだった。
切れ者と噂の女検事はなかなかに知性的。三人との会話の中から、三人の特性と特徴、そして個性も把握した様で。適確な話題で軽井沢の別荘につく頃にはすっかり彼等を懐柔していた。
別荘に入る前に、周囲の警戒の為に助手席から早見が先に降りた。
周囲に目を配っていた早見は、書斎の窓から二宮検事を見詰める社長の姿に(おやっ)と思った。
男の眼差しだ。
次に環が家政婦に「お久し振りです」、と言うのを後ろで聞いていた真梨子が不審の表情を浮かべた。
社長と環が書斎に消えた後で、早見が真梨子の耳に呟いた。
「社長と女検事さんは、男と女だ。それも社長の熱くなりようは普通じゃないぞ」
「それは私も感じた。この別荘に来るのは久しぶりだと、女検事さんも言ってたわね」
それから三人は各々に、警備システムの確認作業に入ったせいで、その話はそのままになった。
ふたりが書斎に消えて二時間後、田辺が早見に耳打ちした。
「ずっと書斎から出て来ないぜ。もしかして社長、女検事さんと出来ちゃったりしてな」
「それは、厄介だな」
早見は、困ったと思った。
警護対象が入れ物の中で、雇い主とややこしい関係になるなんて願い下げだ。環に張り付く予定の真梨子が気の毒と言うものだろう。
やっと書斎から出て来た環を見て、早見は素早く事情を見て取った。目を合わせると、女検事さんは赤くなった。
“氷の女”は、こう言う事には慣れていないらしい。
社長が包む様にして見守っている。「やれやれ、やっぱりそう来たか」、と思った。
仕方がないから真梨子にも耳打ちしてやったが、彼女からも意外な情報を得た。
「それは本当か。あの女検事さんが社長の十年前に別れた奥さんで、社長の子供を流産までしてるってのか」、驚きの話しだ。
「その頃は、まだ検事じゃ無かったみたいだけどね」
早見は急いで田辺を呼んだ。情報の共有。
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