第二章  凶行

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 あれから十年の時が、過ぎようとしている。  今の私は東京地方検察庁・検事・二宮環と呼ばれている。  別名を、“氷の女”  法廷では、「鋭利な刃物の様だ」、と噂の女検事。  あの流産以来、何処か心が研ぎ澄まされた刃物の様に、冷たくて硬い。  そしてあれ以来、私の声は優しく柔らかで女らしい音を失い、どんな心の騒めきも見せない落ち着いたアルトになった。  その声で読み上げる論告は、被告を震え上がらせ、弁護士を蒼ざめたさせる、と評判になり、一部のマスコミ関係者の間では“氷の環”などと言う輩も居る。  最近では、言い寄る勇者も、滅多に居ない。  たまに居ても、とても好きになど為れそうもない男だったりするから、哀しい。  秋霜烈日を心に刻んで、正義に生きる。  それが今の私、二宮環。
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