第二章  凶行

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 ほんの三ヶ月の間の事だ。東京地検を震撼させる事件が、立て続けに三件も起きている。  事の発端は三ヵ月前に、地検のホームページに送られてきたアニメ動画だった。  親父な狸の事務官が駅のホームから突き落とされ、あわや大事故の一歩手前。大騒ぎになるアニメ動画だった。  悪質な冗談だと思われていた。だから、殆ど誰も注視などして居なかったのに。  その三日後だった。年配の事務官の男性がホームから突き落とされて、もう少しで列車に撥ねられそうになり、救急車で運ばれるという事件が起きた。  出勤途中の事で、混み合っている駅の構内での目撃者探しは、いたく困難だった。  その事件発生から一週間後、再びアニメ動画が届いた。  今度はメモリーチップが郵送されて来て、警備員が確認した。  今回のその内容も、そうとう過激だった。  可愛い白兎姿の女性事務官が、帰宅途中に誘拐され、性的暴行を受けるというショッキングなアニメ動画だ。しかも朝の公園の木立に裸で縛られている、バニーガール姿の可愛らしい女の子の静止画像つきだ。アニメとも思えないリアル感の漂う映像だ。  しかも・・かなり扇情的なナレーション付き。犯人役には黒龍と白虎が登場し、ナレーターは朱雀が務めるというこだわり様だ。  冗談では済まない内容に、女性事務官の残業は自粛になった。  身辺に十分に留意する旨が地検内に行き渡り、早めの帰宅が 促されていた。   そして、またも事件は起った。  広瀬検事付きの担当事務官、河村光子が誘拐されたのだ。  事件の起ったその日。東京地検の光源氏と謳われている独身貴族の広瀬検事は、自分の事務官を早目に返し、一人で残務処理の為に地検に残った。  離婚して八年。  一人暮らしに戻ってからの自由にも飽きていたし、再婚の当てもない彼は時間を持て余していたから、事務官の河村光子を少しでも早く帰宅させようと気を遣ったのだ。  此のところ、地検で騒がれているアニメ動画の事を気にもしていた。  河村事務官が自分の担当事務官になってから既に五年目に入り、息もあっている。大切な仕事のパートナーだ。  最近になって幼馴染みの男性と婚約したばかりの幸せ一杯の彼女に、毎日当てられっぱなしだった。だから少しでも、身の安全に配慮してやりたかったのだ。  雨降りの夕暮れ時の住宅街。四月のまだ薄明るい時刻に、帰宅途中の彼女は襲われた。  歩道の少し先にある小さな橋を渡れば、自宅はすぐそこだった。  あと少しと思うと、自然と気が緩む。
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