一ベル 模擬戦

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 ジェラルド=カイパーは瞼を閉じて、若かりし頃に経験した戦場の記憶を思い返していた。「あの戦いで生き残れたのは、お前のお陰だ」と皆は言う。だがジェラルドは、一人では決して乗り越えられなかったと思っている。  着慣れた軍服の上には、十字勲章の略綬(りゃくじゅ)。退路を切り開くために飛び出した、勇敢さを評価されて賜ったものだ。勲章に恥じない戦いをしなければならない。ジェラルドは戦意を高めて瞼を開ける。  腰掛けている革張りの座席の感触が、背中と尻に感じる。やや硬い感触だが、摩擦が少ないのが利点だ。  周囲はモニターに囲まれていた。正面モニターには、人気のないビジネス街が映っている。  ジェラルドが居る場所は、とある機械を動かすための操縦室だ。機械の動作確認のために、一旦頭を空っぽにしてから思う。  ――右手で、握り拳を作る。単純な動作だったが、繊細に、入念に意識を重ねる。  頭の中で、青白い光が走るのを感じた。専門用語で《活動電位》と呼ばれている光だ。感覚や思考が発源した時に、生まれる電気信号である。捉え方を変えれば《意志の起源》とも呼べる光。どちらも光の正体を正しく言い表せているが、電気信号と言い切ってしまう方がジェラルドの好みだ。     
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