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第1章 3節 多角形の法律
ハンプキン、ご武運を、とニールは言う。
僕は気づいていた。
心にしまい込んだ彼女のその想いに。
「ハンプキン、本当に彼らと旅を?」
帽子の下の彼女の表情を、僕は見てしまった。
唇を噛み、震える声を抑える彼女を。
もちろん、アリスの事を好きなのも事実だろう。
それは敬意や尊敬といった類のものという事に、今更ながら僕は気付いた。
ニールは走り去る。
するとアリスが優しく語りかけるように口を開く。
アリス「これはニールからだ。つけ髭をつけるより、よっぽど大人らしい。」
橙色と紫のコントラスト。
幻想と調和のとれた、そんな帽子。
とても綺麗だ。
まるで夢でも見ているかのような、淡い彩り。
ハンプキンがつぶやく。
恋のはじまりは
晴れたり曇ったりの4月のようだ
ハンプキン「想えば想うほどに辛いと言うのに、来る日も来る日も見蕩れてしまう。そういうものだ。いつか戻るまで、私は君を忘れはしないよ。アリス様、そう、ニールにお伝え下さいふむ....。」
アリス「分かった。気をつけて行くんだぞ。」
抱きしめあう。
旅立つ子を思う親のような瞳は、涙で溢れる。
子のいない日々を憂う表情は、くしゃくしゃになる。
涙は重力に従うように、ひたすらに流れて行く。
ハンプキン「お世話になりました..ふむ....。」
アリスが何か言おうとしたその時だった。
ハンプキンはアリスから離れ、こう言い放った。
ムッシュ、何をしているふむ!
旅立ちは別れではない!
すなわち悲しむ必要などないふむ!
旅立ちは成長しようとする者の第一歩!
紳士は涙を見せずに背を向けるふむ!!
ムッシュ「にょらぁ....。」
鼻水をすする音や、喘ぎ声。
むせび泣く者もいる。
それはとても聴いていられるものではないけれど、僕の耳には仲間を見送る為に作られた、交響曲のように聴こえた。
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