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「もう、ここへは来ないから。……ちゃんとご飯食べて、ベッドで寝て。集中することは良いことだし、あなたの描く絵も好きだけど、無理しないでたまには休んで。」
また、元に戻ろう。画家とたくさんいるファンの内の一人に。
ここを離れよう。そうしたらもう二度と会うこともないから。違う世界を生きてきたんだ。それを飛び越えてしまったから、ちゅうぶらりんになってしまった。だから、また違う世界に戻ろう。あなたの生きる世界に私はいなくて、私の生きる世界にもあなたはいない。でもきっと、私の生きる世界にはあなたの生きる美しい世界の欠片が与えられるのでしょう。
あなたのことは忘れましょう。ただあなたの落としていく美しい世界の欠片だけは、手放せそうにないけれど。どうかそれくらいのことは許して。きっと口にすることはないから。
「いままでありがとう、楽しかったよ、すごく。ずっと幸せだった。」
恋する少女の夢は、覚めてしまう。覚めなくてはいけない。大人として現実を生きなくてはいけないから。
夢見る少女じゃいられない、なんて、まさに。
長い長い、夢だった。幸せな夢だった。
幸せな恋でした。
何もかも持って帰ろう。この家のどこにも、私の形跡なんて残さないように。未練なんて残さないよう。ただ一つ、私の恋だけをここに残して。
幸せな恋も、美しく暖かな夢も、ここに置いておこう。この家は私の宝箱だ。素敵なもの、そのどれもをここに置いていこう。残していこう。幸福な恋も夢も、大好きな絵も、恋した人も、みんな。宝箱にしまい込んで、誰にも気づかれないように、誰にも宝物とばれないように。
ネバーランドはもう終わり。
「ありがとう、ごめんね、ありがとう。……大好きだったよ、エノ。」
大好きも、ここで終わらせよう。
ああ、幸せな恋だった。
最後の言葉は、自分が思っているよりもあっさりと唇から滑り出た。
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