幸せな恋は宝箱と共に

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「あなたのことが好きなんです!朝倉先輩、もしよろしければお付き合いしてもらえませんか!?」 顔を真っ赤にしながら私に言う彼は、私よりも三つくらい下の後輩だ。社内でも人気がある爽やかな青年で、何度か仕事の相談がしたいからと食事をしたことがあった。が、告白とは青天の霹靂だ。まるで予想だにしていなかった。茫然としたままの私に、彼は期待のこもった目で見つめる。 私の頭に思い浮かぶのは、一人しかいない。一人しかいないと心は言ってるのに、理性は別のことを言う。 「……少し、考えさせてくれる?」 「っは、はい!先輩の都合のいいときで!大丈夫です!」 元気の良い子犬のように、返事をする彼の眼には不安よりも喜びの方が勝っていることが分かった。 心が欲しがる人は一人なのに、現実がそのままでいさせてくれない。 後輩くんは、優秀で将来有望だ。社内での人気も評価も高い。一生懸命で真面目だ。よく話し、よく笑う。心底嬉しいというように、目尻を下げるように笑う。 あの人とは違う笑い方。 私、朝倉小春という人間は、平凡で何のとりえもない。そこそこに真面目で、そこそこに仕事ができて、そこそこに付き合いが良い。それだけなのに将来有望な後輩は何か私を勘違いしているような気がする。少し、申し訳なくなる。けれど、これは転機だった。 私がずっと好きな人。曖昧なままに過ごしてきた人。 私のことを好きだと言ってくれた人。恋人になりたいと望む人。 どちらが良いのか。どちらといれば幸せになれるのか。 選ぶ、なんて図々しい。思いを伝えるだけの度胸もない臆病者のくせに。 「エノ、」 もし、あの後輩くんの思いにこたえたなら、私はここに来ることはなくなるのだろう。画家の家に置かれた私のものを失くしたなら、この家はどれほど広くなるだろうか。普通に、おつきあいして、順調にいけば結婚することだって視野に入る。それで、子供ができて、主婦になって、幸せな家庭を築いて死んでいくのだろうか。それはきっと幸せだろう。絵に描いたような、幸せの図。 でもそんな幸せな絵に、画家の姿はきっとない。いや、あってはいけない。
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