DNA

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熊木田小百合は寝室のドアの前で動けなくなった。 ドアの向こう側から、夫と女が淫らに愛し合う音が漏れ聞こえるからだ。 百合子が夫の熊木田和実に見初められて結婚したのは16年前。26歳の時だ。夫婦は仲睦まじく働き成功を手にしたと言えたが、子宝だけには恵まれなかった。 10年前に検査をすると夫には異常がなく、小百合の側に問題があった。検査結果では卵巣及び子宮の異常が原因で、卵子そのものにも異常が見られ不妊治療をするまでもなく妊娠は不可能だと医者に宣告された。 大学病院からの帰り道、熊木田は「気にするな。2人だけで幸せになろう」と言ったが、10年がたち、歳を重ねると気持ちが変わったようで子供を欲しがるようになった。 小百合は養子をもらおうと提案したが、独断独善的な夫は「俺のDNAを残したい」と応えた。小百合は自分のDNAを残すことができない。そんな小百合の心情を察する様子は無かった。 それが半年前のことだ。 年間2兆円の売り上げを計上する企業グループを育て上げた熊木田は、その体力も精神力も人並み外れていて、行動力もある。その行動が扉の向こう側で繰り広げられているのだ。
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